2020
08.30

自然体で生きる — 障害者である、という意識が希薄な人生の楽しい旅

Physical Challenger

大手外資系IT会社勤務/脳性麻痺  山崎洋司 氏

今回は、脳性麻痺による運動障害をお持ちのIT系企業社員の山崎洋司さんと、由紀さんご夫妻を亀戸にお尋ねしてお話を伺います。

お二人を見ていて感じるのはとにかく自然体である、ということ。障害はあたかも一つの個性に過ぎない、くらいの意識を持っていて、これみよがしでもなく、頑張り過ぎてもいない。

「脳性麻痺で生まれつき下半身が麻痺した状態だったんですが、親も最初からは気づけないんですね。2、3歳の頃になって『やっぱり立たない』『まったく立たないね』と言って病院に診せに行って、わかったんです」

「治らないことは多分親もわかってはいたんですが、子どもには最初から『治せない』とは言わないわけです。それでマッサージしたり、矯正器具をつけたり、整形医学的アプローチなどいろいろしていたんで、僕も子どもの頃は『いつかは治るから』って友だちに話していたんですが、小学校高学年くらいになった頃には、『もう治らない。この足と一生付き合って生きていくんだろうな』と思っていました」

「最近でこそ歳をとって杖をつかないと歩くのがしんどくなってきましたけど、若いころはそんなこともなく、小中高も普通学科でしたし—多分、いろいろ能力テストとか市役所かどこかでやったんだとは思いますが—、大学、会社員と普通に暮らしてきて、障害者の友人、っていうのはこれまでの人生でほとんどいないんです」

「障害者手帳の存在も、大学卒業するまで知らなかった。親が持っていたんですけど、大学の就職課から『あなた、障害者手帳持ってないの?』って聞かれて初めて知って。おかげでそれまで苦戦していた就職活動もけっこううまく進みました」

聞けば聞くほどご自身が障害者である、という意識が希薄なのです。本人がそうだと、かえって接する人も話しやすいかもしれないですね。

内定は外資系IT大手と東電からもらい、興味のある外資系に入社したのですが、親御さんからは『なんで東電にしないんだ』と怒られたそう。42歳の山崎さんの親の世代の感覚ではわからなくもない。

でも安定した人生よりやりたいこと、という選択も、山崎さんの世代ではよくあること。つまりごく普通の感覚でこれまでの人生を送られているのです。

「ただ、電車はきついです。大学のキャンパスは水道橋で毎日電車通学だったんですが、総武線の辛さと言ったら・・・(笑)」

就職後は勤務地が変更になるたび、なるべく会社に近いところに住むようにしているそうです。

「ところが最近また会社が移転して、最寄りのどの駅からもけっこう歩くんですね。それがちょっと今、キツいところではあります」

「夜は遅くなることがあるからクルマで迎えに行ったりとか。クルマ、持ってないんでカーシェアなんですけど」(由紀さん)

奥さんの由紀さんとは現在の会社で知り合い、2014年にご結婚。

「八王子に異動した時に社内で出会いまして、一緒に住み始めて、愛を育んでいき・・・」

「よく言うわね、そういうセリフ (笑)。ホント、よく言うよ(照)」(由紀さん)

取材当日も朝早くから仲良く上野動物園にパンダを見に行ってきた帰り、というご夫妻。由紀さんが大のパンダ好きなんだそうです。

「パンダというか、シャンシャンが好き。劇的にかわいいんですよ」(由紀さん)

個体差がある・・・んですか?

「全然違いますよ、顔が(笑)。それはともかく、上野動物園は園内も広いし、ずっと立っているのは難しいので今日は車椅子をレンタルしました」(由紀さん)

「今思えば20代までは特に歩くのが辛い、ということはなかったんですが、やはり歳をとるとだんだんしんどくなってきました」

「ガードレールを跨いだり、すぐショートカットしようとするんです」(由紀さん)

「そこを一瞬苦労しても、ついショートカットしちゃいます。距離歩くほうがやっぱり疲れるので」

淡々と話すお二人。若い頃はバリアが気にならなかったけど、最近はちょっと・・・というのは、別に健常者でも歳を取れば同じ思いを抱くわけで、山崎さんの場合は少しそれが早く来ただけ、という一種の達観した感覚が、むしろ同世代の人より大人だな、と感じます。

「もうこの障害とは一生付き合っていかなきゃいけないので、あんまり考えすぎると・・・。元がマイナス指向型なので(笑)、考えないようにしてます。いつも明るく、どうしたらこの障害があっても楽しく生きられるかな、ってことだけ考えて、楽に生きようと」

自らを枠にはめない、理想の夫婦

「歩き方が特徴的じゃないですか(尖足歩行=つま先立ちで、少し引きずるような歩き方)。だからけっこう、人に覚えられやすいんですね。それを逆手に取って、お店の人とかと仲良くなるのが得意なんです。覚えてもらうと話しかけやすいみたい。スポーツジムなんかでも世話を焼いてくれる人がすぐに現れたり。だから悪いことばかりじゃないかな、って」(由紀さん)

「この人が歩いていると、子供とかすっごい見てくる。それも素直でいいと思います」(由紀さん)

うーむ、まさにこの夫にしてこの妻あり、ですね。山崎さんにこれまでの生活において、自慢できることとは?と伺ったら、間髪入れず「私の嫁です」と答えが返ってきました。そりゃそうだ。「やめてよー。そういうの、なくない?」と照れる由紀さんに構わず、

「今でも覚えてるのが、原宿駅だったかな、結婚式の準備で出かけてる途中だったんですけど、目の不自由な方がいらっしゃって」

「どっち行ったらいいのかわからない感じで立たれていたので、ちょっと聞いてみただけですよ」(由紀さん)

「聞いたら、僕らの行く方向と真逆の方に行きたかったみたいで、『わかった、待ってて』って、俺を置きっぱにしてずーっとその人に付き添って行っちゃった。たぶん、障害者か健常者か、とか、そういうところも分け隔てなく人と接することができるんですね」

「障害の有無とかはあまり考えて行動することはないですね。別に、人はみんな違うし、みたいな」(由紀さん)

屋久杉は諦めましたけど、エンジェルフォールはぜひ行きたい

『STICK TRAVELER』より

実は障害者を取り巻く環境についての問題点などもこのインタビューで毎回伺っているんですが、これは聞くだけ野暮かな?

「ないです、って言ったら怒られそうだけど、普段から良くも悪くも、自分が障害者、って考えないように生きているから、そういうことを考えたり、求めたりはそもそもしてこなかった、っていうのはありますね。むしろ、こういうインタビューを受けることになって、いい意味で意識することになったと思います」

「最近、趣味と実益を兼ねてブログを始めたんです。二人とも旅行が好きなので、この、『STICK TRAVELER』っていうサイト。『杖の旅人』という意味で」

ロゴが『インディ・ジョーンズ』っぽい。

「『インディ・ジョーンズ』大好きなんです!もっと予算があれば、各地のバリアフリー情報とか、車椅子レンタル情報や導線の情報などをもっと充実させたいですね。普段は車椅子には乗らないんですが、上野動物園は広いので今日はレンタルしましたし。階段の手すりのある無しや、その場所。真ん中か、両端かによっても片麻痺の人には使い勝手が違いますよね。それに同じ階段でも遺跡などは急すぎるところもありますから。アンコールワットとかはキツかった」

「普段からジム行ったりして体力が落ちないようにはしているんですが、やっぱり歳をとると歩く距離や、歩いた後の疲労感が違ってきまして、例えば何時間も山道を歩かなきゃいけない屋久杉なんかは、行くのは諦めています。でも南米のエンジェルフォール(ベネズエラにある、世界最大の落差=979mの滝)っていうのは行きたいんですよ」

「これまでも旅行はいろいろ行きましたが、幸運にも行く先々で、車椅子押してくれたりする人に恵まれてると思います」

「東南アジア、特にタイなんかは、日本より助けてくれる人が多かったですね。駅の警備員さんがずっと一緒に階段降りてくれたりとか、船に乗る時でも知らないおっさんが手を繋いでくれたりとか(笑)、電車でもすごい離れたところから、こっちきて座りな、って呼んでくれたり。気持ちの余裕を感じました」(由紀さん)

日本も一昔前はそうだったんですが、最近は老人扱いすると怒られたり、かえって席を譲るのに気を使ったりする風潮にはなっています。障害者、健常者、高齢者、若年層、といった区分けが意識の分断を生んでいる印象もあります。

「彼女も言ったように、障害者の人は、その人なりに思うところはいろいろあるんでしょうけど、障害、という言葉にとらわれず、前向きに明るいプラスな方に物事を考えていったほうが、人生面白いかな、と思うんですけどね」

二人の『STICK TRAVELERS』の今後の活躍に期待しましょう。下記URLで山崎さん夫妻のサイトにリンクできます。


山崎洋司・由紀 (やまざき・ようじ/ゆき)

『STICK TRAVELER』より

http://stick-traveler.com/

http://xiang-xiang.tokyo/xiang/

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