2020
10.13

先天性の血友病でありながら薬剤師かつMBA取得経営者として活動。人生を楽しむ達人の攻めの生き方

Physical Challenger

株式会社フィアート代表取締役・薬剤師・MBA/血友病 梅原昌宏 氏

子供のころからなるべく明るく生きることは心がけていました。落ち込んでいても始まらないですから

今回は増本が知人を介して知り合った方で、生まれつき難病の血友病を患いながら、薬剤師兼MBAの資格を持つ経営者である梅原昌宏さんを、ご自身が経営する八王子の薬局にお尋ねします。

血液凝固因子の先天的不足により出血が止まりにくくなる、という血友病は難病ではありますが、障害者認定を受けられる病気ではありません。ただし、内出血がおこりやすい関節の出血が度重なって起こる変形や拘縮(こうしゅく=可動域制限)によって障害者認定を受けられるケースもあります。梅原さん自身は現在障害者認定を受けていませんが、治療費は国が負担してくれるケースもあるとのこと。

まずはご自身が血友病であることを認識した時のお話から伺っていきます。

「生まれは島根県の安木市、ってところなんですけど、生まれてすぐから小学校1年くらいまで父の仕事の関係で千葉の津田沼にいました。そこで幼稚園の時、一泊だったか二泊だったかな、泊まりの遠足があって、宿泊先で虫歯から血が出て止まんなくなっちゃった。放っておいたまま家に帰ったら口元が血だらけなので母にびっくりして病院に連れて行かれて検査してわかったんですね」

「さすがに幼稚園の子供に説明してもわからないので、その時は僕には詳しい話はなかったんですけれども、島根に戻って小学校2年の時に、『こういう病気なんだよ』ってあらためて聞かされました」

「始めは一定期間おとなしくしていれば治るものだと思って『でもこのけつゆうびょうって、ちゃんといい子にしていれば治るんだよね?』って聞いたら、母が『もう治らない。一生この病気を付き合いながら、気をつけて生きていかなきゃいけないよ』って」

「治らない、と聞いてこれからどうなっちゃうんだろう、と複雑な気持ちになったのは覚えています。ただ、それを伝える母親がもう、泣きながら話すので、『あ、大丈夫、大丈夫。僕、がんばるから』って」

「足とか肘とかの関節内の内出血が多くて、放っておくと、腫れて歩けなくなっちゃうことがあるんです。だから体育も一切禁止。一番体を動かしたい時期なのにずっと見学です。遊びたいけど遊べない。でも子供なのでやっぱり遊んじゃってまた足首痛めたりとか。そんな子供時代でした」

血友病の患者さんは定期的に血液凝固製剤を注射することで不足した因子を補う生活を送るのが基本なのだそうです。

「最近では製剤にもいいものが出てきていて、場合によっては血友病の子供でも注射をしながら部活動したり、っていう例もあるようですね。僕もずっと自己注射を週に2〜3回していたんですけど、一昨年くらいに新しい薬が出て、それだと最長1ヶ月に1回くらいでいいんです。僕の場合は週に1回してるんですけど、それだけで気持ちも全然違います。もう治ったんじゃないかくらいに思えて、生活のリズムもずいぶん変わりますね」

「おかげで今はそれほど気をつけていることは少なくなったんですが、小さい頃から関節、特に足首を痛めることが多くて、可動域が限られてはいます。正座もできないですし、歳とともに節々も痛くなってきますし。これは誰しもそうなのかもしれないですけど」

確かに、誰しも歳をとると節々が痛みます・・・。それはともかく、さぞかし辛い経験や思いをしたでしょうに、淡々とお話される梅原さん。

「母に病気の話を聞いた時は島根に戻っていたんですが、田舎の病院ですから、たとえば新たに赴任する看護師さんも血友病の子供は初めてなわけなんですね。その人、いろいろ悩みを抱えて暗い子を想像していたらしくて『明るくて、全然イメージちがいました』って母に話したらしいんです。そんなこともあって、子供のころからなるべく明るくしようかな、とは思っていました。結局落ち込んでても始まらない、っていうかね。子供ながらに感じていたんじゃないかと思います」

「思春期のころにはそれなりに悩みもしましたけど、辛いことを受け入れるとその裏には必ずいいこともある、と思います。同じ境遇の友達と多く知り合えたり、こうして話を聞いていただけたり。この人生もこれはこれでよかったかな、と思うんです」

一度来て、すっかり気にいってしまった八王子

梅原さんを増本に紹介してくれた同じ血友病の方はネットに詳しく、梅原さんが5年前くらいから主催している東京医大の先生の勉強会をニコニコ生放送で配信する立て付けなどを手伝ってもらっているそうです。

「あと今、地元の八王子にNPO作って、ボッチャのチームを運営しているんです。『ドラゴンファイターズ』って言うんですけど、特別支援学校の生徒さんや卒業生を中心に。小さなチームなんで僕もプレーして、多摩地区の大会に出たりしてがんばっているところです。こうした仲間に出会えたのも、血友病のおかげですね」

そういえば、島根生まれで幼少期に千葉で育ち、大学は仙台に学ばれた梅原さんが八王子にいらっしゃるきっかけはなんだったのでしょう?

「高校まで島根でずっと病院通いだったので医師の先生や薬剤師の先生にお世話になることが多かったこともあり、大学も薬科大を目指すことになって東北薬科大学(現・東北医科薬科大学)に入学するんですが、別な大学の受験で一度八王子に来て、気に入っちゃったんですね。自然もありながら島根ほど田舎でもなく(笑)、新宿まで3〜40分で行ける」

「大学卒業して、研究室の先輩がいた仙台市内の薬局に一度就職するんですけど、そこが経営がうまくいかなくなって。転職するのに首都圏がいいな、と思ってこの薬局に入りました」

「経営にも興味があって、ゆくゆくは薬局を自分で経営したい、と思ったので新宿に分校があったウェールズ大学(本校はイギリス)に通ってMBAを取得しました。その間ここの仕事は一度辞めて、MBA卒業後、薬局さんで講演会とか講習会などしていた折にここのオーナーさんから店舗売りたいので誰か紹介してくれないか、と頼まれたので、じゃあ、僕やりますよ、と」

ただの寄付やNPOではない、障害者向けのビジネスファンドを作りたい。人口の7%はマイノリティではない

MBAの資格を生かした将来のビジョンもお持ちの梅原さん。

「資金を貯めて、投資家になりたいと思っているんです。血友病の人に限らず、障害があったり、いろんなハンディキャップを持っている人たちがビジネスに挑戦できる投資をしてあげたい。現状は健常者が障害者を支援してあげる、という流れが多いですが、障害者、って、身体、知的合わせて、割合にしたら人口の7%くらいと言われているんですね。つまり、10人に1人弱くらい。この割合なら、その人たちが中心になって世の中を動かしたり主役になるビジネスプロジェクトがあってもいいですよね」

「もちろんビジネスですから生き残るのは難しい。ただ、NPOや寄付だと、お金をいただくことは同じでも失敗しても成功しても、がんばりましたね、で終わってしまう。ビジネスだと成功した人は投資した人にリターンを返し、それがまた次の投資に回るわけで、うまく循環すれば資金が増えていくはずですし、失敗した人にも再チャレンジの機会を与えることができます」

増本も、同席した弊社役員の那須も、同じビジョンを持っているので目を見開きながら大きく頷いていました。さすがMBA取得の人。数字を根拠に、障害者=マイノリティではない、という説明には説得力があります。

「車椅子の人が電車乗る時に駅員さんに橋渡しとかしてもらっているじゃないですか。それを当然のこととしてありがとうも言わずに行っちゃう人、って時々見かけます。まあ、駅員さんとしては当然なのかもしれないけど、人に対する感謝の気持ち、というのは障害の有無とは関係なく社会人としての責任ですよね。下半身が不自由な人は、歩くことを手伝ってもらわなければいけないですが、上半身が動くなら、上半身が不自由な人をサポートしてあげることはできる。マイノリティじゃない、というのはそういうことだとも思います」

これまた増本たちも我が意を得たり、と感心していました。

最後に、仕事以外の部分でのこの先のビジョンをについても伺いました。

「先ほども話しましたが、歳とともに足腰が弱くなってはきているんで、今の時代、60歳、70歳で引退するのに僕の場合は10年くらい早くなるのかな、と思って、その先をどうやって生活していくのか、というのは解決しなければいけない問題ですね。それも含めて投資家を目指したい、ということもあるんですが」

「最近、乗馬を止めたんですよ。高校のころからずっと乗りたいな、と思っていて。15年くらい前、安田記念で45万円当てまして。それを元手に八王子の乗馬クラブに通っていたんですが、最近はきつくて」

「でも今は息子が乗馬クラブに通うようになったんですね。で、一緒に乗るのはもう無理だから、馬主になりたいな、って思っているんです。一口馬主ですけどね。そうすると一緒に牧場に馬に会いに行ったりもできますし、乗馬を諦めても馬は全部ダメ、じゃなくて違う形で接するこもできます。将来は旅行に行けない人がバーチャルで旅行することができるかもしれないし、代わりになるものを見つける努力とか楽しみを続けていきたいな、と思っているところですね」

とにかく人生を楽しもう、その一言に尽きる、と最後にお話された梅原さん。難病や障害をひとつの個性として受け止めることを子供のころに達成できた人ならではの含蓄のある言葉でした。


梅原昌宏 (うめはら・まさひろ)

株式会社フィアート代表取締役/薬剤師/MBA
1974年、島根県安来市出身
1999年東北薬科大卒業後、薬剤師を経て、
2010年MBA取得
八王子市椚田町にて「エルダー薬局」を経営
※梅原さんには息子さんがいらっしゃいますが、血友病に起因する血液凝固因子はX染色体上にあり、男の子(XY)のX染色体は母親から受け継ぐので、原則、血友病を発症する危険はないと言われています。

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